2014年、蓬莱人形初版ブックレットの正確なテキストが明らかにされた。初版蓬莱人形の受容の歴史を語る上で欠かせない出来事だ。しかしながら、解明に関わったサイトはすべて消滅しており(2023年現在)、その経緯をたどることは困難となっている。このような現状を踏まえ、この記事では、2014年に蓬莱人形初版ブックレットの正確なテキストが明らかにされた経緯について記述する。
2014年当時、「THB Wiki」のC62版蓬莱人形ブックレットのページには初版蓬莱人形のブックレットの画像*1が掲載されていた。サイト「幻想記憶補完庫」の管理人だった塢城は、2014年11月13日の記事で、インターネット上に流布していたブックレットのテキストと「THB Wiki」の画像から推定されるテキストとに相違があることを指摘した*2。画像は解像度が低かったため、この時点では文章の欠落など相違があることを指摘するにとどまったが、続く11月16日の記事では人伝いにブックレットを閲覧し、テキストの具体的な正誤を列挙した*3。これに基づいて「THB Wiki」や「Touhou Wiki」の該当ページに修正が入れられている(ただし、この時点で挙げられたテキストの誤りが全てではなかった。詳細は、拙著『蓬莱人形初版ブックレットの比較文献学——インターネット上に流通しているテキストの異同や出自について』を参照のこと。)。
11月29日*4、駿河屋に入荷されていた「上海アリス幻樂団コンプリートBOX」が購入された*5。これには旧作のほか初版蓬莱人形も同梱されていた。東方関係のニュースまとめサイト「東方メモリアル*6」の管理人がこれに目を付けた。コンプリートBOXの所有者と連絡を取り、12月31日付の記事で旧作のほか蓬莱人形初版ブックレットの写真を公開した*7。これで初版蓬莱人形ブックレットのテキストは確固たる証拠と共に明らかとなったのだ*8。
蓬莱人形初版ブックレットテキストの解明は界隈においてもそれなりの注目を集めたらしく、東方Wiki主催の『あなたが選ぶ2014年東方関連重大ニュース』にて9位を獲得している。2014年はdonjuan氏作『蓬莱人形殺人事件』や凋叶棕の『屠』が発表されており、初版蓬莱人形への注目が高まっていたことが想像される(私は当時、東方のとの字も知らなかったので詳細は知るべくもない。)。テキストの解明ののち、『東方メモリアル』は2016年9月28日を最後に更新を停止、2017年中頃には閉鎖。発端となった塢城氏の『幻想記憶補完庫』も2018年頃に消滅した。
*1:この画像はせっか氏の2011年8月12日のツイートの無断転載だった(Twitpicのリンクが死んだので画像への直接リンク→「CD-R版紅魔郷と蓬莱人形」)。画像の初版蓬莱人形そのものはY.GORO!!氏の所有であったことが引用ツイートからわかる。その後、京都秘封探訪氏の 2018年4月14日のツイートの4枚目の画像をトリミングして使用していた。現在は別の画像を使用している。
*2:『ネット上におけるC62初版蓬莱人形ブックレットのテキストと画像との相違点の検証 』
*4:ちなみにこの日、蓬莱人形初版のジャケット画像が『東方メモリアル』に提供され、画像の掲載されたツイートを引用する形で『東方メモリアル』に掲載された(『東方Project史上最も希少価値の高い作品の一つの『C62初版 蓬莱人形』と『初版 東方紅魔郷』の所有者が現れる!!!』)。しかし提供者が「怖くなった」ため、直後にアカウントごと削除された。提供者の投稿と思われるレスが『【C62版】蓬莱人形の世界観を語るスレ【通常版】』レス95に残る。
*5:『まんだらけ秋葉原店にて『初版蓬莱人形』を含む『上海アリス幻樂団コンプリートBOX』が100万円で販売されていたが売れたらしい』翌日30日の記事。
*6:東方関係のニュースまとめサイト。2013年8月開設。当時最大手と言ってよいほどの影響力を持ったが諸事情あって閉鎖。
*7:『『C62 初版 蓬莱人形』と『初版 東方紅魔郷』と『東方靈異伝』と『東方封魔録』と『東方夢時空』と『東方幻想郷』と『東方怪綺談』をこの目で見て記憶に刻みました』
*8:明らかとなったのだが、現在(2023年)もwikiなどに掲載されているテキストは誤りが含まれている。詳細は、拙著『蓬莱人形初版ブックレットの比較文献学——インターネット上に流通しているテキストの異同や出自について』を参照。